漫才作家・中田明成

5000本の漫才台本を書いた作家、中田明成のウェブサイトです。

横山たかし・ひろし「お坊ちゃまは人類を救う」

たかし:大金持ちのお坊ちゃまじゃ、皆笑えよ、スマンノー
ひろし:佐用町へやって参りました
た:この佐用町は、お坊ちゃまの第2のふるさとなんじゃ
ひ:第2のふるさと?佐用が?
た:さようじゃ
ひ:……ほな聞くけど、この佐用と君とはどういうつながりがあるの?
た:大したつながりじゃ無いんじゃ
ひ:と言うと?
た:何年前か忘れたけど、ここの町長さんに頼まれて、この文化センターを寄付したんじゃ
ひ:大したつながりやないか。この男が文化センターを寄付したこと、会場の皆さんは知ってましたか?
た:……ラジオをお聞きの皆さんにお伝えします。横山ひろしの問いかけに、会場の全員が「知ってた知ってた」とうなづきました
ひ:誰一人うなづいてるかい!
た:寄付したこと、会場の皆さんが知らんのは無理ないんじゃ
ひ:どうして?
た:町長さんに言っておいたんじゃ「お坊ちゃまは、目立つことが嫌いやから、寄付のことは誰にも言わずに内緒にしといてくれ」と
ひ:……目立つことの嫌いな人間が、こんな金ピカの衣装着るんかい!?
た:これは漫才する為に、いやいや着とるんじゃ
ひ:目立つことの嫌いな人間が、漫才師になるんかい!?
た:お坊ちゃまが漫才師になったのには深い訳があるんじゃ
ひ:どんな深い訳や?
た:お坊ちゃまの生き甲斐は、庶民の笑顔を見ることだけなんじゃ。その為には、漫才が一番手っ取り早いやろ
ひ:なるほど
た:そやから、漫才の収入は全くアテにはしとらんのじゃ。そこがお前とは違う所じゃ
ひ:なんで?
た:お前が漫才師になったんは、ただただ食わんが為やないか
ひ:……確かに食わんが為でもあったけどな
た:わしは庶民の笑顔を見んが為、お前は食わんが為。横山、格差がありすぎてスマンノー
ひ:やかましいわ!
た:しかし皆さん、今の日本の格差社会はなんとかしなあきまへんな
ひ:いつもホラばっかり吹いてる君から、格差なんて、そんな難しい話が出るとは思わなんだなぁ
た:お坊ちゃまが格差のことぐらい知らなんだら、恥を”かくさ”…………笑えよスマンノー
ひ:……確かに今の日本は格差が広がる一方やな
た:そやからこの前、大阪へ講演に来ていた安倍総理に、お坊ちゃまは声をかけたんじゃ
ひ:安倍総理に何を言うたん?
た:「格差社会の問題には、しっかりと取り組んでもらわなきゃ困るよ安倍君」
ひ:ほな安倍総理は?
た:ハンカチを口に咥えて「ア~ア~、お坊ちゃまにそれを言われるとつらいのぉ……スマンノォー」
ひ:言うかい!
た:格差があるのは、日本だけと違うぞ横山
ひ:と言うと?
た:世界に目を向けても、世界の地域格差は凄いんじゃ
ひ:ホー、世界に目を向けるか
た:横山、たまにお前も世界に目を向けえよ。パチンコばっかりに目を向け取ったら、わしとの知的格差は拡がる一方やぞ
ひ:ほっとけ!
た:世界には裕福に暮らしてる地域がある一方で、満足に食べ物さえ食べられない地域があるんじゃ
ひ:気の毒な地域もあるんやなぁ
た:そのことを知って、このおぼっちゃまは自分を恥じたんじゃ
ひ:自分の何を恥じたん?
た:今朝、朝食のハムが嫌で「こんなもん食べられるか!」と、テーブルをひっくり返したんじゃ
ひ:そらそんなこと言うたらいかんわ。ハムがまずかったぐらいで「こんなもん食べられるか!」て
た:まずかったんと違うんじゃ
ひ:というと?
た:賞味期限が一年前に切れとったんじゃ
ひ:そら食えんわ!……それにしても、あの嫁さんの前で、ようテーブルをひっくり返す勇気があったな?
た:「食べられるか!」とテーブルをひっくり返したんは、嫁さんが犬を連れて、散歩に出かけたんを確認してからじゃ
ひ:嫁さんの前でひっくり返したん違うんかい!?
た:嫁はんが帰ってくる迄には、きれいに片づけたんじゃ
ひ:情けないわ!
た:それだけと違ごて、今まで、牛肉は上ロースしか食べず、キノコはマツタケしか食べなかった自分を、お坊ちゃまは恥じとるんじゃ
ひ:ちょっとそれは贅沢やで
た:食べ物が無いだけと違ごて、世界には、いまだに電気の無い地域もあるらしいのぉ
ひ:電気が無かったら、テレビも見れへんわな
た:いや、テレビはロウソクで見とるんじゃ
ひ:見れるか!
た:お坊ちゃまは、電気の無いある村に発電所を寄付したんじゃ
ひ:発電所!?スケールの大きい物を寄付したなぁ
た:そしたら、その村の人たちから、さっそく、お礼の言葉を録音したCDが届いてのぉ
ひ:ええ加減なこと言うな!電気が無いのにⅭⅮがあるか?
た:とにかく届いたんじゃ
ひ:……で、そのⅭⅮにはどんなお礼の言葉が入っとったんや?
た:「マチャボオ、ウトガリア」
ひ:何語やそれ?
た:専門家に訳してもろたら「お坊ちゃま、ありがとう」と言うてるらしいねや
ひ:ⅭⅮの中の言葉は?
た:「マチャボオ、ウトガリア」
ひ:「お坊ちゃま、ありがとう」を逆さまに言うてるだけやないか!
た:世界に目を向けると、格差以上に深刻な問題が、温暖化ですね
ひ:この問題は、確かに深刻やわな
た:地球の温暖化によって、毎年海水の温度が上昇してるらしいね
ひ:怖い話やな
た:ある学者によると、百年後には海水の上昇によって、海の中で泳いでるのは、ゆでだこだけになるそうですよ
ひ:ゆでだこが泳ぐか!
た:地球の温暖化が、なぜ人類に悪影響を与えるかを説明しましょ
ひ:なんでや?
た:温暖化が進むと、陸地に雨が降らなくなって、砂漠が増えるんじゃ
ひ:なるほど、砂漠が増えたら、まず食料が作れんようになるわな
た:この会場を見なさい。お客さんの頭を見ても、ところどころ、砂漠化が進んでることがわかるでしょう
ひ:そんなもん温暖化と関係あるかい
た:海の女と書く、海女さんというのはどんな仕事をしているか知ってるか?
ひ:海に潜って、貝やエビなんかを獲る仕事やろ
た:海だけとは限らんのじゃ、南アメリカ大陸には、大きな川があって、川にも海女さんがおるんじゃ
ひ:ホー、川にも海女さんが
た:ところが、ある年、雨が降らず、川が干上がってしもて、貝やエビが全く獲れない為に、海女さんが大損をしたんじゃ
ひ:それも温暖化の影響やわな
た:その海女さんが損した川というのが
ひ:アマゾン川やろ
た:先に言うな!わしゃ、そのアマゾン川を言う為に、どんだけ引っ張った思うねん
ひ:知るかいそんなこと
た:温暖化が進むと、砂漠が増えるだけと違うんじゃ
ひ:と言うと?
た:南極や北極の氷が溶けて、陸地が海の中に沈んでしまうんじゃ
ひ:年中海水浴が出来るやないか
た:そんな問題か!
ひ:陸地が海に沈むとなると、まさしく人類の危機やないか
た:そこでお坊ちゃまは、人類の危機を救うために、地球の温暖化を防ごと思っとるんじゃ
ひ:どうしたら、地球温暖化が防げるの?
た:温暖化の原因は二酸化炭素なんじゃ
ひ:それはよく聞くね
た:この二酸化炭素は、温暖化の原因だけと違ごて、人間の体にもよくないんじゃ
ひ:どうよくないの?
た:二酸化炭素が増えると、トイレに行く回数が増えるんじゃ、つまり、シーが多くなるんじゃ
ひ:シーが多くなる?
た:そやから、二酸化炭素の事をシーオーツーと言うんじゃ…………笑えよ
ひ:真面目な話の最中に、しょうもないこと言うな!
た:お坊ちゃまは人類を救いたい。その為には、みんなが協力して、CO2を減らそうじゃありませんか
ひ:どうしたら、CO2が減るの?
た:できるだけ車に乗らないこと。お坊ちゃまも、車に乗るのはやめて、先月からは自転車じゃ
ひ:排気ガスにはCO2がいっぱいやもんな
た:人間の呼吸いうのは、酸素を吸うて何を吐き出すか知っとるか?
ひ:二酸化炭素、CO2を吐き出すんやないか
た:皆さん、地球からCO2を少なくするために、呼吸をするのをやめましょう
ひ:死んでしまうわ!
た:人類の危機を救うために、しょうがないやろ
ひ:訳のわからんことを言うな!
た:お坊ちゃまは人類の危機を救いたいんじゃ
ひ:やかましいわ!何が人類の危機を救うじゃ。人類の危機を救う前に、お前とこの家族の危機を救うたらんかい。息子はパチンコに凝って自己破産寸前やし、娘は男に金貢ぐために、会社の金横領してるらしいやないか
た:(ハンカチを出して涙をぬぐう格好)ア~ア~、それでもお坊ちゃまは、人類の危機を救いたいんじゃ、そやから車から自転車に乗り換えたんじゃ
ひ:何が人類の危機を救う為じゃ。お前が車から自転車に乗り換えたんは、借金のカタに車を持って行かれたからやないか
た:ア~ア~、それを知っとったんかい、ツライノォー
ひ:それからなんやと、電気の無い村に発電所を寄付したやと
た:はい
ひ:電気代を滞納して、電気を止められた男が、発電所なんか寄付できるんか
た:ア~ア~、ほんまに寄付したんじゃ、これだけは信じてくれよ横山
ひ:発電所てどんな発電所や?
た:ほら、自転車をこいだら、ぐるぐる回ってランプがつくやろ
ひ:そら発電機や!
た:ア~ア~、発電機やったか、間違えてスマンノー
ひ:発電機でも、買って寄付したことは立派やけどな
た:お前の自転車からはずしたんじゃ、スマンノー
ひ:泥棒やないか!それから何やて。牛肉は上ロース肉しか食べないのを恥じてるやと?
た:はい、贅沢しすぎてました
ひ:何が上ロース肉じゃ。お前とこの嫁さんが買ってる牛肉は、いつもワカメやないか
た:ワカメというと?
ひ:ナミの下
た:ア~ア~、つらいのぉ、たまには並みの肉ぐらいは食べたいのぉ
ひ:キノコはマツタケだけやと
た:はい
ひ:お前この前、家の軒下から生えてきたキノコを、味噌汁に入れて食べとったやないか
た:ア~ア~、あのキノコはええ味しとるんじゃ
ひ:あのキノコのどこがマツタケや?
た:生えてくるのをマツダケなんじゃ
ひ:……それから、講演に来ていた総理の安倍君に声かけたやと?総理がお前なんかを相手にするわけないやろ
た:ア~ア~、実は講演に来ていた安倍君に声をかけたんと違うんじゃ
ひ:誰に声かけたんや?
た:公園にいたアベックに声をかけたんじゃ
ひ:公園のアベック?
た:はい「格差社会をどう思いますか?」と
ひ:アベックどう言うた?
た:「うっとうしいおっさんやのぉ」
ひ:そらうっとうしいわ!わしが一番腹立ったのが、このわしが食わんが為に漫才していて、お前は庶民の笑顔を見たいが為で、漫才の収入はアテにしてないと言うたな
た:はい、まあそこらがお坊ちゃまの余裕じゃ
ひ:やかましいわ!お前とこの嫁はん、お前が漫才のギャラを持って帰るのを、いつも買い物かごをぶら下げて、家の前で待っとるやないか
た:ア~ア~、そやから嫁はんには、家の表で待つなと言うとんねや
ひ:さっきも、この男に、この嫁はんから電話がありましてね
た:「愛してるわ」言う電話でんねや
ひ:嘘つけ「上方演芸会のギャラちゃんと持って帰るのよ、それが出来なかったら、もう戻らへんでええよ」いう電話や
た:ア~ア~、つらいのう。誰かこのわしを救うてくれ
ひ:あかんわ!

 

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