漫才作家・中田明成

5000本の漫才台本を書いた作家、中田明成のウェブサイトです。

チャンバラトリオ「ムコ殿無情」

(突き飛ばされるような形で、伊吹上手より登場、続いて山根登場)
伊吹:お助け下さい、お助け下さい!
山根:ならぬ、お前を斬るのだ(刀を抜く)
伊吹:どうか、命だけは……
山根:うるさい!わしは人を斬るのが、メシより好きな男じゃ
伊吹:メシより?
(伊吹、懐から、メシを山盛りもった茶碗を出し、そばへ置く)
(山根、伊吹と茶碗をしばらく見比べ、伊吹に向かい)
山根:斬ってやるー!
伊吹:ほんまや……
山根:しょうもないことを試しおって……ターッ!
(山根、伊吹を斬る)
伊吹:(棒読みで)ヤラレター!
(伊吹、空空しく倒れる)
山根:……お前死に方下手やなぁ、10年以上もこの仕事してるんやったら、もうちょっと、真に迫った死に方出来んか?
伊吹:真に迫ったというと?
山根:グワーッ!……ウェーッ!……ウァォー!
(思いっきりきばって苦しむ)
伊吹:あんた、この芸だけは迫力あるね
山根:ウウーッ!グァオーッ!
伊吹:……しまいに血管はじけるで
山根:うるさい!
(山根、伊吹を斬る)
伊吹:ウウーッ!ググーッ!(苦しむ)……あんたには負けるわ(倒れる)
山根:いかん、誰か来る
(山根、上手へ去る、下手より同心姿の南方登場、手には十手を持っている)
南方:私は十手持ち、だから、人を助けるのが、メシより好きな男です
(南方、倒れている伊吹とメシが山盛りの茶碗に気づく)
南方:アッあそこにメシ……そしてあそこに人が倒れている!
(南方、伊吹と茶碗を見比べ)
南方:まずメシを頂こう
伊吹:アホなアホな……今あんた、人を助けるのがメシより好きやと言うたがな
南方:そうか
(南方、伊吹のそばへ行く)
南方:どうした、誰にやられた
(南方、伊吹を抱き起こす)
伊吹:あなた様は
南方:奉行所同心、中村主水
伊吹:中村主水と言えば、闇の商売は、必殺仕事人!
南方:シーッ!声が高い(大声で)必殺仕事人なんて大声で言うな!!人に聞かれたらどないするねん
伊吹:あんたの声の方がずっと大きいで
南方:で、お前誰にやられた?
伊吹:山根新八……
(伊吹、懐から一両を出し)
伊吹:どうか、この金三両で、恨みを晴らしてください
南方:金三両て……一両しかあれへんがな
伊吹:あとの金二両は
(伊吹、自分の股間を指さし)
伊吹:ここのを使って下さい
南方:そうか、これを切り取って……使えるか!……よし、一両でいい、この中村主水、しかと、お前の晴らせぬ恨みを晴らしてやるぞ
(南方、手に一両を持つ)
(下手より、武家の老婆姿の結城登場)
結城:ムコ殿、ムコ殿ではございませんか
南方:これは母上
結城:こんなところで何を?
南方:人が斬られて倒れていたので、助けようと……
結城:マー、養子のぶんざいで人を助けようなんて生意気な、あなたは養子なんですよ、養子の立場をお忘れですか、養子ですよ……
伊吹:……ちょっとちょっと、なんか私の方に、グサッグサッとこたえるで
(結城、南方の手にある一両に気づき)
結城:そのお金……そうですか、私とリツに、着物を買ってやろうと……頂いておきます
(結城、南方の手から一両をもぎ取り、上手の方へ去っていく)
結城:リツや……リツ……ムコ殿が……リツ!
伊吹:……えらいおかんのおるとこへ養子に行ってまんなァ、嫁はんリツさんですか、あや子のとこへ養子に行った私の方がましみたい
南方:ゴチャゴチャ言わんと、早よ死なんかい、死ななあんたの恨み晴らせんやろ
(伊吹、急に息も絶え絶えになる)
伊吹:ウウーッ!
南方:迷わず天国へ行けるように今してやるからな
(伊吹の上半身を裸にして、後ろから背中を流す格好)
南方:ハダカー、天国!
伊吹:ホテル紅葉……ハダカー、天国、ホテル紅葉……
(伊吹、上手へ去る)
南方:どうやら天国へ行ったようだな……さっ、あの男の晴らせぬ恨みを晴らしてやらねば……仕事の相手は、山根新八
(山根、上手より登場)
山根:そうは簡単に殺られはせぬぞ、中村主水
南方:というと、お前が山根新八
山根:問答無用!
(山根と南方の立ち回り、一度下手に消えた後、刀と刀を交える動作で中央へ)
南方:待った待った、あまり、刀と刀をチャリンチャリンとやり合うのやめましょや
山根:どうして?
南方:これをやると、刀の刃こぼれがしてしゃあない
山根:わしの刀は、刃こぼれなどしないぞ
南方:で、あんたの刀の銘は?
山根:備前長船
南方:ええ刀やもん……私の刀、金蔵作やで
山根:ノコギリやがな
南方:見てください、この刃こぼれ
(刀を見せる、凄い刃こぼれ)
山根:えらい刃こぼれやなァ
南方:ね
山根:こんなんで斬れへんで
南方:そやろか
(南方、山根の胴辺りをノコギリのように斬る)
山根:ギャーーッ!
南方:斬れたー
山根:ウァーッ!
南方:とどめをー!
(南方、斬りかける)
山根:待ってくれ!わしも悪い人間だが、もっと悪いやつは、伊吹屋太郎兵衛
南方:伊吹屋太郎兵衛
山根:そう、わしを悪の道へ誘い込んだのはその男
(山根、懐から五両を取り出し南方の手に握らす)
山根:これで恨みを晴らしてくれ
南方:金五両!
(上手より結城登場)
結城:ムコ殿、ムコ殿!
(結城、南方の手の中の五両を見る)
結城:オー、金五両、そうですか、これで、私とリツを海外旅行へやってやると
(結城、五両をもぎ取り下手へ去っていく)
結城:リツー、リツー……ムコ殿が……リツー!
南方:クソーッ!あんた、この恨み晴らしてくれへんか
山根:アホな!伊吹屋太郎兵衛へのわしの恨み頼んだぞ
南方:まかせておけ
山根:ウッウッ、わしはもうだめだ……わしみたいな人間でも、天国へ行けるんだろうか
南方:まかせておけ
(山根の上半身を裸にして、背中を流す格好)
南方:ハダカー、天国!
山根:(のらずに)歩行者天国へ行ってこよう
(山根、上手へ、南方ズッコケ、下手より伊吹登場)
伊吹:私は伊吹屋太郎兵衛、われながら、よくまあこれだけ悪いことをしてきたものよ
(南方、伊吹を斬る)
伊吹:ウワーッ!
南方:とどめを
伊吹:待ってくれ!
(伊吹、懐から十両を取り出し南方の手に握らす)
伊吹:この十両でわしより悪いやつへ、恨みを晴らしてくれ
南方:十両
(下手より結城登場)
結城:ムコ殿、ムコ殿……ま、十両……そう、この十両を私とリツにくれると
(結城十両をもぎとり上手へ去る)
結城:リツー、リツー、ムコ殿が……リツー!
南方:あんたより悪い奴て、絶対あの女やろ
伊吹:相手は山根新八の兄貴の、山根新吉!
南方:山根新吉!
(上手より山根登場)
山根:私は山根新吉、われながらよくもここまで悪い男よのう
南方:ターーッ!
(南方、山根を斬る、上手より結城登場)
結城:ムコ殿!ムコ殿!
南方:早い早い!まだ次をやる分のお金もろてへんねん
結城:(倒れている山根に)はよお金出しなさい!
(山根、懐から十両を出す)
山根:この十両で、わしを斬ったこの男をやってくれ
(山根、南方を指さす)
結城:ハイハイ
南方:ハイハイて……私は、あんたの家のムコ殿やで
結城:そう言えば、あなたは当家のムコ殿、そんなことできるわけがありません
南方:でしょう
結城:と、油断させておいて……
(結城、千枚通しのようなもので南方の首を刺す)
結城:ブシューっ!
南方:そんなアホな
伊吹:養子てつらいでんなァ
南方:うるさい、お前が養子やばっかりに、こんな芝居やらないかんねや……
 
(おしおき)

 

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