漫才作家・中田明成

5000本の漫才台本を書いた作家、中田明成のウェブサイトです。

夢路いとし・喜味こいし「誉め誉め作戦」

いとし:岐阜県の高富町へやって参りまして、いい所ですね
こいし:……
い:落ち着いたいい町やと思いませんか……どないしたん?
こ:今日は私、あまり喋らんとこ思てますねん
い:なんで?
こ:実は今日、大阪からここ来る列車に、女子大生のグループが乗ってまして、そのやかましいこと。私は寝よ思ても全然寝れへん
い:そないやかましかったん?
こ:そらベチャクチャとひどいもんや。君良かったね、汽車代浮かすために、大阪から自転車で来て
い:アホなこと言うな!私は違う列車で来たんや
こ:喋るということが、どんなに人に迷惑をかけるとかいう事が、初めてわかりましてね。そやから今日は私、あまり喋らんとこ思いましてね、そんなもん喋りませんよ。迷惑やからね。喋らん言うたら喋らんよ、喋らんぞぉ!
い:……いつもより、ずっとよう喋ってるの違うか!?
こ:でも、もう喋らん
い:君、勘違いしてるよ。女子大生が列車の中でペチャクチャと喋るのと、君が舞台で喋るのとは。同じ喋るのでも、全然値打ちが違うねんで
こ:(ニコッとして)値打ちが?
い:そらそやがな、女子大生が列車で喋ると、他のお客さんが寝れへんのやで、君が舞台で喋ると、お客さんがよう寝れるんやで、全然値打ちが違うがな
こ:……それどういう意味や!?ボロクソに言うてるの違うか?
い:でも、電車とかバスの中のお喋り事を迷惑がらずに、耳を傾けて聞くことも、我々の仕事には大事な事ですよ
こ:なんで?
い:そのおしゃべりが、情報の頼朝になることも多いねんで
こ:情報のヨリトモ?
い:頼朝やない、義経でもなし……頼朝や義経の苗字なんやった?
こ:……源かい!
い:情報の源になるねんで
こ:なんじゃそら!で、どう情報の源になるいうの?
い:この前、私が大阪の地下鉄に乗った時や、二人の紳士がお喋りをし始めたんや
こ:どんな?
い:「おおこれはこれは鈴木さん」「まあ、山田さんでんがな」
こ:鈴木さんと山田さんか
い:「鈴木さん、私さっきミナミの珍来軒いうところで、ラーメンを食べてきましたんや。ほなそのラーメンのうまいことうまいこと」
こ:ラーメンの話題かいな
い:うまいラーメンと聞けばたまらんがな。私は耳を傾けて聞いてましたよ
こ:君はラーメン通やからね
い:ラーメン通だけ違うで、うどん通でもあり、そば通でもあり。最近は神経痛でもあるねんで
こ:神経痛は関係ないねん!
い:とにかく私は麺類が大好きでして
こ:そんなに麺類が好きか?
い:そんなもん、私はラーメン、うどん、そばを食べだしたら、食事も忘れてしまう人間やで
こ:それが食事や!
い:どっかにうまい緬類がある、なんて聞けば、必ず飛んで行って食べに行く人間やで
こ:よっぽど好きなんやねえ
い:この前、舞台の合間に、私ちょっとおらんようになったやろ
こ:そんなことあったね
い:あれ、香港へラーメン食べに行っとったんやで
こ:いけるか!で、その鈴木さんと山田さんが、地下鉄の中で喋ってたラーメンて、どんなラーメンや
い:まず「見た目がきれい」らしいねん。
こ:そら大事なことや。見た目の汚いのは食う気がせん
い:「緬にコクがあって、ツユがシコシコしてる」いう話をしてたで
こ:緬とツユがアベコベや!
い:緬の腰がシコシコしてるいうのが、私好きでね
こ:で、他に?
い:上に乗ってるチャーシューがうまくて「うん、これが本物の豚だ」と思うなんてことを話しとったで
こ:最高やないか。君、さっそく食べに行ったん違うか?
い:翌日行きましたよ、ほんなら、私だけと違ごて、その時地下鉄に乗ってた他の人らも、その店へ来てるねん
こ:なるほど、その人らも、鈴木さんと山田さんの話を聞いていて、興味持って食べに来たんやな
い:喋ってた鈴木さんと山田さんも店におるねん
こ:客としてやな?
い:いや、店の主人と店員として
こ:……どういうこっちゃ!?
い:早い話が、店の宣伝するため、主人と店員が芝居しとったんや
こ:……そんなん詐欺と同じやないか!
い:まあそのラーメンのまずいことまずいこと
こ:……気の毒に
い:緬はベチャベチャ、ツユは塩っぽいだけで、チャーシューなんか「これが本物の豚だ」や言うて「これが本物の靴の底だ」いうようなやつや
こ:かとうて噛めへんかったんかい!?
い:見た目なんか君とこの嫁はん
こ:うちの嫁はんて?
い:きっちゃないきちゃない
こ:やかましいわ!
い:しかし、うまい宣伝方法もあるもんやと感心しましたね。あんなまずいラーメンで店は客でいっぱいや
こ:その話を聞いて、私君に相談したいことが、今出来たんやけどな
い:なにを?
こ:今度私と君が地下鉄の中で出合うて、そのラーメン屋の主人と店員の要領で、二人で喋りあいたいねん
い:わかった。君の親戚か知り合いに、売れんラーメン屋がいて、同じ手で宣伝しよ思てるな
こ:売れんラーメン屋やないねん
い:ほな、うどん屋かい?
こ:違うねん、うちの娘
い:娘!?
こ:うちの娘、もうええトシやのに、なかなか買い手のうて売れよらん。そこで、地下鉄の中で君が娘を誉めてくれてみ。聞いてた人が「そんないい娘さんなら、うちの息子の嫁に」となるやろ
い:あの娘をそんな手で嫁にやるて。ラーメン屋がやった手が詐欺と同じやったら、それ人殺しと同じくらい罪重いで
こ:なんでやねん!
い:娘を誉めてくれって、あの娘を誉めるとこなんて、ちょっとしかないねんで
こ:そこを強調して褒めてくれ
い:誉めるとこなんて、目が小そうて、鼻が低うて、口がバカでかいというぐらいやで
こ:そら貶しとんねや!
い:顔は君とこの嫁はんと一緒やから誉めるとこ無いやろ。性格は君と一緒やから誉めるとこ無いやろ。やってることイノシシと一緒やから誉めるとこ無いやろ
こ:……ほなうちの娘、他の畑を荒らしまくっとんのかい!
い:こうせえへんか。私なんとか頑張って誉める代わり、この前借りた一万円を帳消しということでどや
こ:……なんちゅう男や!けど娘の為や、それで手を打と
い:しかし、一万円は安すぎたかな。まあええ耐えがたきをを耐え、忍びがたきを忍んで誉めましょ
こ:そんな大層に言わんでええがな!
い:とにかく、やりましょう
こ:頼むわ、私が地下鉄にまず乗ってるやろ、そこへ君が偶然に乗ってきたようにして、会話が弾む
い:言うとくけど、それ、朝の一番電車にしてや
こ:なんで?
い:君の娘を誉めるような芝居、私恥ずかしいがな。一番電車やったら、だれも乗ってへんからやれるねん
こ:……人がたくさん乗ってな、それをやる意味がないねん!
い:わかりました。乗ってる時にやらせて頂きます。やったらいいんでしょやったら
こ:……そんなふてくされんでええがな!
い:君が乗ってるところへ、私が偶然に乗ってきたようにして、近づく
(二人、つり革を持つ仕草)
こ:「おお、いとっさんやないか!」
い:「おお、喜味こいしさん」
こ:……喜味こいしさんて、上の名前まで言うの不自然やねん。こいしだけでええねん
い:「おお、こいっさん」
こ:「偶然やねえ、今日は仕事の休みの日やのに。なんでこんなところで二人が会うたんやろ?」
い:「会うように打ち合わせしといたから違うか」
こ:それを言うたらいかんねん。周りには、自然に見せかけないかんねん
い:「ほんまに不思議やねえ」
こ:「どうですか、君とこの家族、最近会わんけど元気か?」
い:「おかげさんでみんな元気ですよ」
こ:「それは結構やねえ」
い:「ところで、君とこの家族は」
こ:「うちの家族もみんな元気ですよ」
い:「それは気の毒に」
こ:「なんで、うちの家族が元気ったら気の毒なんや」
い:「医者が気の毒や言うてるねん。元気やったら儲からへんやろ」
こ:「……そんな心配するな!」
い:「ところで、奥さんはいかが?」
こ:ちょっとちょっと、嫁はんの事はどうでもええねん。ここでは娘の話題を出してほしいねん
い:わかってるけど、急に娘の話題を出したら不自然やろ
こ:なるほど
い:「奥さんはいかが?」
こ:「相変わらずですよ」
い:「相変わらずブサイクのままですか」
こ:「ほっとけ!」
い:「おじいちゃんは?」
こ:「元気元気」
い:「亡くなったお婆ちゃんも元気?」
こ:「元気なわけないやろ!」
い:「犬のポチもどう?……猫のミャーの子は貰い手あったか?」
こ:早ようちの娘のこと聞いたれや!
い:「娘はんどうしてます?」
こ:「元気でやってるけど、いまだに嫁に行かずにおるねや」
い:「まだかいな。そやけどあの娘(急に声が小さくなり)なかなかええ娘やのになぁ」
こ:……なんで急に「ええ娘や」いうところで声が小さなるの?
い:そやけど、あんなん大声で誉めにくいで
こ:そこを大声でやらなあかんねん
い:我慢してやるわ「あの娘、ええ娘やのになあ!」
こ:「いや、大したことないよ」
い:「大したことないか。娘のことは親が一番よう知ってるからな」
こ:それを言うたらいかんねん!私が謙そんしたら、「そんなこと無い」いうて。娘を誉めてくれないかんねん。ラーメン屋かて、誉めまくったから売れてるねや
い:「大したことないこと無いですよ。ええ娘ですよ」
こ:「そうか」
い:「まず見た目がええ」
こ:「うんうん」
い:「それに、腰がシコシコしてる」
こ:どんなんや!……人間の腰がシコシコしてるて?
い:「それに、何と言っても、これぞ本物の豚というところが一番や」
こ:もうええわ!
 

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