漫才作家・中田明成

5000本の漫才台本を書いた作家、中田明成のウェブサイトです。

夢路いとし・喜味こいし「板バサミはつらいよ」

いとし:今日大阪からここへ来る途中の列車の中で、喧嘩を見ましてね
こいし:列車の中で喧嘩と
い:どちらも白い服、白いシャツ、白い靴を履いた、恐そうなお兄さんや
こ:白い服、白いシャツ、白い靴て、なんやカモメの水夫さんみたいなお兄さんやな
い:けど、波にチャプチャプは浮かんでなかったで
こ:わかっとるわい!
い:その喧嘩の原因が、なんと、トイレに行く時、肩がちょっと触れたいうだけや
こ:大の男の喧嘩の原因がそんなことかいな
い:私は「お前たち、大の男が情けないと思わんのかバカモノー!」と
こ:言うたんかい?
い:言いたい気持ちをグッとこらえて思いました
こ:何を?
い:ここでそれを言うて、怪我でもさせられて病院へ運ばれて、漫才が出来んようになったら、せっかく待って頂いてる大島町の皆様に申し訳ない、と
こ:……ほんまにそこまで思たんかい!?
い:思いましたよ、私の体なんかどうなってもいい。ただただ、大島町の皆様の事ばかりを思い、言いたい気持ちをグッとこらえまして
こ:……そうと違ごて、言うのが恐ろしかったんやろ!
い:またその喧嘩が、いつまでもひつこくやってるねん
こ:喧嘩のひつこいのいややねぇ
い:私は思わず「いつまでやっとるんじゃ、ええ加減にせんか!バカモノー!」と
こ:言うたんかい?
い:言いたい気持ちをグッとこらえまして…ああ、私は大島町で漫才をしなければいけない体なのだ。こらえなくてはいけない
こ:……あのな
い:その喧嘩ひつこいだけと違ごて、大声でやり合うから、周りの人がえらい迷惑でね
こ:そら迷惑や
い:私は今度はほんまに言いましたよ「バカモノー!やめんか!」
こ:ホー、それを二人の前で?
い:いや、隣の車両のトイレの中で
こ:二人の前で言わな、何の効果もあらへんやないか
い:言いたいのを我慢したんや…私の体は自分だけの体やない、大島町の皆様が待つ体なんだ
こ:それはもうええちゅうねん!まあしかし、他人の喧嘩に下手に口出して怪我でもさせられたらたまらんわな、仲裁者が被害にあうケースて多いがな
い:けど、そうは思うものの、喧嘩や揉め事の仲裁をせなあかん時て、私にはいろいろありましてね
こ:というと?
い:というのは私、20年前から、町内の自治会の役員をやってまして
こ:役員というと?
い:カンボウ長官をやってまして
こ:……町内の自治会の役職に、カンボウ長官なんてあるの!?
い:最初は相談役という名前やったんやけど、町内に感冒が流行した時に、病院へ送り回ったりして、私大活躍しまして、それでカンボウ長官になりまして
こ:カンボウいうのは風邪の感冒かい!
い:そういう世話好きやから、町内の連中が、よう揉め事とか喧嘩を持ち込んで来ましてね
こ:どんな揉め事や喧嘩が多い?
い:一番多いのが夫婦の揉め事ね、別れるのどうのというの多いで
こ:そういう時は、その夫婦に君はどう言うの?
い:「別れたらいかん。こいっさんとこの夫婦を見てみ、あの夫婦でさえ40年間夫婦をやり続けてるんやで、あの夫婦が別れてんのに、あんたとこが別れてどないするの」
こ:……それどういう意味やねん!?
い:で、相談に来た夫婦に、この前私が君とこの家庭を撮影したビデオテープを見せるねん
こ:うちの家庭を撮ったテープを?
い:そら、君との嫁はんがアップで映るシーンなんか、思わず全身の身の毛がよだつよ
こ:なんでやねん!
い:君の顔がアップになった時かて、ビデオを見てた夫婦の奥さんの方が、キャーって悲鳴をあげたで
こ:なんで私の顔のアップで悲鳴をあげられないといかんねん!
い:テープを見終わった夫婦は必ず言いますね
こ:どう?
い:「私たちが間違ってました。世の中の夫婦には、下には下があるものですね」
こ:ちょっと待てや!この前君がうちの家庭を撮影したビデオは、うちのなごやかな家庭風景ばっかりやったはずやで
い:そら、あのままやったら、なごやかな家庭風景やけど、私かて面白味を出す為に、いろいろと手を加えて編集してるがな
こ:どう、手を加えて編集してるて?
い:奥さんが台所で料理を作る前に、笑いながら包丁を研いでるシーンを撮らせてもらたわな
こ:撮った撮った
い:あのシーンでは、笑い声を別に付け足しましてね
こ:どんな笑い声を?
い:イッヒッヒッヒッヒッヒッ!
こ:……イッヒッヒッヒッ笑いながら包丁研いでたら、まるでうちの嫁はん鬼ババやないか!
い:その後、家族がなごやかに食事をしてるとこを撮ったわな
こ:そうそう
い:あの食事シーンを抜きまして、その代わりに、君が横になって寝てるシーンを入れまして
こ:私が横になって寝てるシーン
い:ただ寝てるだけでは面白ないので、特殊技術を使いまして、包丁が胸に刺さって寝てるようにしまして
こ:なんで私が包丁で刺されないかんねん!
い:その後、霊柩車が走るシーンを入れまして、霊場のシーンを入れまして、生命保険会社の看板を入れまして
こ:入れるなそんなもん!
い:その後に、君とこの嫁はんが、札束を一生懸命数えてるシーンを入れまして
こ:うちの嫁はんが札束を数えてるシーンて、君、うちの嫁はんが札束を数えてるとこなんか、あの時撮影したか?
い:したがな、私のポケットがふくらんでることに君とこの奥さんが気づいて、そのふくらみは一万円札の札束やって、それを奥さんが数えさせてくれ言うて数えたがな
こ:……好きに言うとれ!
い:君とこの嫁はんが、イッヒッヒッヒ笑いながら包丁を研ぐシーン。次に、君が横たわっていて胸に包丁が刺さってるシーン、霊柩車が走るシーン、霊場のシーン、保険会社の看板、奥さんが札束を数えるシーン。このビデオを見た人は、君とこの夫婦をどう思う、和気あいあいの夫婦やと思うか
こ:誰が思うかい!恐ろしい夫婦やと思うわ
い:そやから、世の中には下には下の夫婦があるなあと、反応する訳や
こ:しかし、そんな無茶苦茶な編集したビデオを人に見せられたんでは、うちの家族の立場が無いがな
い:でもテープの最後に、君とこの家族全員が揃って笑いながらVサインしてるシーンを入れてるで
こ:フンフンそのシーン撮った撮った。私もいっしょにVサインしてるねん
い:特殊技術で、君が映ってるとこだけはボヤかして誰やわからんようにしまして
こ:アホな!
い:君なんかでも、人の揉め事や喧嘩に関わりたくなくても、かかわらざるをえん時が必ず来るよ
こ:というと?
い:君とこの一人息子、もうそろそろ嫁はんをもらわないかん年齢やろ
こ:今捜してるとこや
い:嫁さんが来たら、まず、嫁姑の争いが起こりますよ。ほな君は好む好まざるに関わらず、仲裁に立たなあかんということになるがな
こ:そう言えば、君とこの嫁はんと息子の嫁の仲も、えげつないらしいねぇ
い:そんあことありませんよ。嫁はんも息子の嫁もおとなしい人で、お互いにいたわり合ってますよ
こ:ウソ!おとなしい性格でお互いにいたわりあってる同士が、屋根瓦めくって投げ合いするか?私見たで
い:見たか?ほな、包丁の投げ合いは?
こ:それは見とらん
い:そら、えげつないですよ
こ:そやのに、なんで君、お互いにいたわり合うてるなんて言うの?
い:他人には、嫁姑が仲良ういってるように言わな、私、嫁はんにも息子の嫁にも、ご飯作ってもらえへんねん
こ:情けないな!
い:君かて、いずれは嫁姑の喧嘩の板バサミにならないかん運命や
こ:そうかなぁ
い:そんなもん、あの気のきつい君の嫁はんや。で、あの息子やろ、ロクな嫁はん来るわけないがな
こ:ほっとけ人のこと!
い:(嫁になって)「お父さん、ねぇお父さん、聞いて下さい」
こ:……なんや?
い:私、君の息子の嫁の役やってんねや
こ:息子の嫁を?
い:「ねぇお父さん聞いて下さいよ」
こ:「何や?」
い:「お母さんたら、私に『腐ったおかずばっかり私は食べさせられてる』なんて怒るんですよ」
こ:「あいつまたそんなこと言うてるんか」
い:「私、お母さんのおかずだけは絶対に気つこてるはずなんです。お父さん」
こ:「わかっとるわかっとる」
い:「すこしでもお母さんのおかずに腐りかけてるのが見つかれば、私は必ずお父さんのおかずに回してるんですお父さん」
こ:「回すなそんなもん!」
い:「この前、お母さんが廊下ですべって転んだことあったでしょ」
こ:「あったあった」
い:「お母さんは、私が廊下に油を塗ったなんて怒るんです」
こ:「そんなことを嫁のあんたに!?」
い:「ひどいでしょ、私、油なんか塗った覚えないんですよ」
こ:「わかっとるわかっとる」
い:「私、ロウしか塗ってないんです」
こ:「塗るな!」
い:「でも、私なにも、お母さんを転ばそ思ったんじゃないんです」
こ:「わかってる、あんなにそんな悪気のないことはよう知ってる」
い:「私、お母さんよりお父さんの転ぶ姿の方が好きなんです」
こ:「わしを転ばそ思て塗ったんか!それは嫁としてはだね…」
い:「あなた!あなた!聞いてよあなた!」
こ:「あっ嫁はんか、何や一体?」
い:「嫁の幸子さんが『お風呂が沸きました』言うから、入ろとしたら、お湯が煮えたぎってるのよ」
こ:「それは酷いなぁ」
い:「私、幸子さんに言ってやったの」
こ:「どう?」
い:「『幸子さん、お風呂というのは、一番最初にすすめるのは、私じゃなくて、うちの主人でしょ』」
こ:「……なんで煮えたぎった風呂の時だけ、私が先にすすめられないかんねん!」
い:「でもあなた、幸子さんは、我が家の嫁としては、出来が悪すぎると思いませんか」
こ:「まぁ、そういわれれば、出来は悪いかもね」
い:「……ひどいわお父さん!私の出来が悪いてあんまりだわ!」
こ:「……幸子さんまだここにおったんかいな。ごめんごめん、本心はあんたのことを出来が悪いなんて思てへんよ。あのおばはんうるさいから、口裏を合わせただけ」
い:「あなた、口裏を合わせただけだなんて、それはあんまりだわ!」
こ:「……わかってるわかってる、わしは常にお前の味方や」
い:「それはあんまりだわお父さん!」
こ:「まあまあ幸子さん気を落ち着けて」
い:「ひどいわ、あなたぁ!」
こ:「やかましいわ!両方からヤイヤイ言われたら、私は板バサミになるだけで、どうやってええねやわからへんやないか」
い:「すみませんあなた……幸子さんも謝りなさい」「どうして私が謝らないかんのですか」「まぁ、あなた、嫁のくせに姑の私にたてつくの」「姑が何よ、姑は嫁のなれの果てよ」「まあ酷いことを…あなた何とか言ってやって」「お父さん助けて!」
こ:「ええ加減にせい!」……しかし、君も一人で、嫁と姑の二役をようやるなぁ
い:しょうがないがな、私一人しかおらんのやから
こ:「まあとにかく、嫁と姑がいつもいがみ合ってるのではなく、お互いの意見も合わさないかん」
い:「あなた、私と嫁の幸子さんと意見が合うところもあるのよ」
こ:「ほー、そら結構やないか、それで、そんなことで意見が合うの?」
い:「この家は、二世帯の家族が住むには余りにも狭いこと」
こ:「……まぁ確かに狭いわな。で、他に意見が合うたことは?」
い:「家の狭い原因は、あなたの甲斐性が無かったということ」
こ:「しょうもないことで意見を合わすな!」
い:「あと一つ、幸子さんと意見が合ったことがあるのよ」
こ:「で、それは?」
い:「この家を広くする為に、あなたに出て行ってもらうこと」
こ:ええ加減にせい!
 

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