漫才作家・中田明成

5000本の漫才台本を書いた作家、中田明成のウェブサイトです。

横山やすし・西川きよし「男が命をかける時」

きよし:さっき表で、どこかのお年寄りと君、えらいモメてたやないか
やすし:そらモメるがな
き:なんでや?
や:顔見知りでもないのに「コラーッ!やすし!」なんて呼ばれたら、誰かて怒るやろ
き:「コラーッ!やすし!」てかい
や:私がなんぼ芸人でも、そんな呼ばれ方される必要ないねん
き:そらそうや「コラーッ!やすし!」と違ごて「これはやすし」やったら、私が出て来て「買いにきよし」で丸く治まったんや
や:君は関係ないねん!
き:どういう言い方で呼ばれてたら、君は腹立ってなかったいうの?
や:(国会風に)横山やすしくん
き:国会議員か君は!
や:丁寧に呼んで欲しかった
き:しかし相手は年寄りや、もうちょっとやさしいモメかたもあるやろ
や:年寄りやからこそ、もっと常識をわきまえちゅうねん!
き:けど、見たとこ相手は明治の人やで
や:明治の人がなんやねん、うちの兄貴、グリコの人じゃ!
き:何の関係あるねん!
や:私はもう年寄り嫌い、大嫌い
き:年寄り大嫌い言うても、いずれは君も年寄りになる身やで……あっそうか、君は三十五歳で死ぬんやったな!
や:なんでやねん!ほな私の寿命、あと二年かい
き:いずれは君も歳はとるねや
や:歳はとっても、心は万年二十歳でいるつもりですよ私は
き:心は万年二十歳てかい
や:七十になったから言うて「わしゃもうおじんや、孫のおもりだけが楽しみでのう」……そんなん嫌い
き:ほな、君が七十になった時、どんなことを喋ってるいうの?
や:「よう、セーラー服のお姉ちゃん、あんたヘモグロビン多そうね、カッコいい(指笛を吹く)」
き:……あのな、七十にもなっててやで、「よう、セーラー服のお姉ちゃん、あんたヘモグロビン多そうね、カッコいい(指笛を吹く)」てね……うちのおじんがそれで困っとんねや!
や:ほんまかいな!
き:しかし、君が歳とったら、どんなおじいさんになっとるやろね
や:さあ、どうやろね
き:(やすしの前髪を示し)完全にこの辺りは毛無いわな
や:うちの親父がそやからね
き:(おでこを指し)ここにシワが三本(両頬を指し)こことこことこことに三本ずつ……この辺りにシミがボタボタ、目やにがごてー……君、今のうちに死んだ方が幸せやで
や:ええねん死ぬのは!
き:私が老人になった時の姿てどんなんやろね
や:髪の毛は真っ白やろね
き:うちは白髪系統やからな
や:眉毛も白やわな、目がどないなっとるかが問題や、多分腐って、ここまでただれ落ちとるで
き:アホな!……君なんか、自分の老後を考えたことあるか?
や:考えるわけないやろ!明日のことも考えたことさえないのに
き:明日のことも考えたことないて?
や:江戸っ子が明日のことなんか考えて、クヨクヨしてられるかってんだ、ベラボウめ
き:……江戸っ子だってねぇ?
や:淡路島の生まれよ
き:どこが江戸っ子やねん!
や:とにかく私は、明日は明日の風が吹くいう生活しか出来へんの
き:いかんねえ、そんな生活は
や:しかしね……
き:なんで君は、明日はあさっての風が吹くいう生活が出来んねや
や:どんな生活やそれは!
き:堅実な生活をせな駄目でしょ、貯金もちゃんとして
や:そら君は貯金もできるわな、所得番付にも載ったもんな……同じようにこうやって漫才してて、片方が所得番付上位に載るんやから、せめてもう片方は中位くらいに載って当たり前やけど、どこを見ても、私の名前おまへんねん……みじめでっせ
き:そんだけ働きが悪いからや
や:まあええわい(捨て台詞)ピンハネしてんのんわかってんねん
き:誰がやねん!誰がピンハネしてるいうねん
や:君やとは言わんわい……目玉の大きいやっちゃ
き:……わいやないか!
や:とにかく、芸人が明日の生活を考えてるようでは駄目
き:芸人やから考えないかんねや、それでのうても芸人は明日の無い生活を送っとんのやで
や:明日の無い生活?
き:そうや
や:ほな芸人いうのは、今晩寝て、明日の朝起きたら、その日はあさってかい
き:意味が違うねや!
や:というと?
き:明日が無いいうのは、つまり、芸人いうのは人気商売やわな
や:人気だけが頼りや
き:その人気が、今日はあっても、明日もあるとは限らんちゅうねん
や:わかるねぇ、特に歌手なんかそうやね
き:歌手は若ないとあかんみたいな傾向ですからね
や:その点、漫才の方はベテランが頑張ってくれてるから心強い
き:人生幸郎のお父さんなんか、舞台でフラフラしながら「マー皆さん聞いて下さい(恰好)」
や:フラフラてね……
き:皆さんが知れはらしまへんやろけど、人生幸郎さんが舞台に出てはる時、必ず楽屋で坊さん待ってはりますねんで
や:アホな!
き:童話に、コオロギとアリの話あるやろ
や:コオロギとアリの話?
き:夏の間、コオロギは遊びまくって、冬になって食い物無くなって、アリのとこへ助けを求めに行く話や
や:そのアリが君で、コオロギが私やと言いたいねやろ
き:ようわかっとるがな
や:フンッ、アリがどやちゅうねん(ボクシングの格好……アントニオ猪木の真似をして)「アリには絶対勝つ!」
き:「日本ハム……」いらんことさすな!
や:(CMの真似をして)目玉アリ退治は、横山はんにまかしとくんなはれ
き:もうええちゅうねや!
や:だいたい君は、明日のことを考えすぎやねん
き:考えすぎいうことはないですよ
や:君がこの前、一日消防署長を引き受けたんも、将来もし自分がこの道で生活やっていけんようになった時の為に、コネつけたんやろ
き:消防士になるためのコネやいうんかい
や:やらしい……男として情けない
き:自分はなんや、いつもちゃんと警察にコネつけとるやないか
や:……
き:男としてやらしい言うのやったら、役人の天下りほどやらしいもんないで
や:天下りて、役人がコネつけて会社の重役になる?
き:そうそう
や:役人が会社の重役やなしに、漫才師になっても、やっぱりこれ、天下り言うのやろか
き:役人が漫才師に?……そら、ダダ下がりやないか
や:ダダ下がりて……
き:役人が一度掴んだ栄光に恥も外聞もなくしがみつく気持ち、私はわからんことも無いね
や:そう言えば、君もよう、エイコウにしがみついとるがな
き:栄光に?(気取って)すると今の僕って栄光を掴んでるんだなァ
や:ちゃうちゃう、私の言うエイコウはアルサロのエエコや
き:アルサロ?
や:ええ子やええ子や……しがみつきぱなしやないか
き:ほっとけ!しかし、天下りはともかく、男が転職をするちゅうのも一つの賭けやね
や:賭けやね
き:私も、自動車の修理工、パン屋の店員……いろいろと転職をして、苦労してきました
や:いろいろ転職したんやなァ
き:夢多き男やったからねえ……
や:私も店員、工員と、君以上に転職したからねえ
き:根気のない男やったんやなあ
や:なんやそれは!自分の転職は夢多き男で、私の転職は根気の無い男かい!
き:転職しても失敗するケースは、どんなケースかわかるか
や:どういう転職が失敗する?
き:まず坊さんが医者に転職するケースね
や:……そら失敗するわ
き:今までの癖が出て、病人見たら、手合わすからね
や:他に失敗するケースは?
き:天文学者が、風呂屋の窯炊きに転職するケースね……すぐ覗きたがるからね
や:他には?
き:相撲取りが競馬の騎手に転職するケースね……重たかって馬死ぬからね
や:初めから転職できるわけないがな
き:海で海女をやってた女性が、バーのママに転職するのも失敗するケースやね
や:なんで海女をやってた女性が、バーのママに転職したら失敗するの?
き:すぐ、モグリ営業してしまう
や:ヤブ医者が、バスの運転手に転職するのも失敗するケースやで
き:なんで?
や:(運転する格好)ヤブ医者だけに、すぐ手を放すで
き:怖いな!
や:消防士が散髪屋に転職するのも失敗するケースでっせ
き:どうして?
や:ホースと勘違いして、すぐ首の血管切って、水吹き出させたがるからね
き:アホな!
や:プロ野球の選手はマンジュウ屋へ転職したらあきまへんで
き:どうして?
や:癖が出て、作ったマンジュウ皆投げてしまいよる
き:……プロ野球の選手と言えば、あの人達も、将来自分に力が無くなった時、どんな職業についたらええか、みんな考えてるらしいね
や:(マイクを持つインタビュワーの格好)それでは、プロ野球選手の方々に、もし自分がプロ野球の世界で通じなくなった場合、末期(まつご)をどうして生きていくのか、インタビューしてみましょう
き:末期てなんや!
や:阪神タイガースの掛布選手がおられます。聞いてみましょう
き:(ゴロを受けて投げる格好)
や:掛布さん、こんにちは
き:……(目をむき)こんにちは
や:……カケフというよりも、キョウフいう感じがするな!
き:ほっとけ!
や:どうです?もしプロ野球で通じなくなったら、なんで生活やりますか?
き:もちろん洗濯屋をやりますよ……布団のカケ布専門の
や:なるほど、マイクをつけた車で町を回られるわけですね、注文取りに
き:そうです
や:♪ロバのおじさんチンからホイ♪
き:ロバのパン屋やそれは!
や:あなたの場合は、どういうて注文取りに?
き:もちろん……カケフー!カケフー!カケフー!
や:なるほど……おっ、阪急の福本投手がおりました……福本さん
き:なんだんねん
や:なんだんねんて……あなた、プロ野球で通じなくなったら、何で生活しますか?
き:足を活かして泥棒しまんがな、泥棒を……
や:アホな!福本投手に怒られるで……おっ、ヤクルトの若松選手がおります。若松さん
き:はい
や:もしプロ野球で通用しなくなったら、何で生活しますか?
き:結婚式場の仕事でもやりますよ
や:……若松選手と結婚式場ね……もう次に言うオチはわかったんねん、これだ!(きよしの目を指さす)
き:♪メデタメデタの 若松さまよ♪ ほっとけいうねん!
や:最後に、王選手にインタビューしてみましょう
き:(右打ちの格好)
や:そら右打ちや右打ちや!
き:これでええねん!
や:なんで?
き:鏡に王選手が映ってるとこや
や:言い訳すな!……どうですか王さん、もしあなたがプロ野球で通用せんようになったら、何で生活をしますか?
き:イヤァー、僕はどこか田舎でも行って、のんびり過ごしますよ
や:さすが大物、考えることがみみっちないなァ
き:ハッハッハッ(笑い)
や:田舎へ行って何をやりますか?
き:のんびりと、カガシのアルバイトでもやりますよ
や:もうええわ!

 

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