漫才作家・中田明成

5000本の漫才台本を書いた作家、中田明成のウェブサイトです。

横山やすし・西川きよし「空を飛ぼう」

やすし:君に尋ねますけどね、もし君が漫才師になってへんかったとしたら、今頃何になってたと思いますか?
きよし:そうですね、僕は小さい頃から飛行機が好きやったから、スチュワーデスかなあ
や:スチュワーデスかい
き:憧れてましたからねスチュワーデスに、皆さま、毎度ご乗車ありがとうございます
や:飛行機は車やないのやから、ご乗車いうのはおかしいのと違うか? 
き:そうですか、毎度ご乗飛行機ありがとうございます。この飛行機は、大阪発、北極廻り東京行きでございます。お乗りの方は押し合わないように順番に願います……押し合わないで下さい、押し合わないで下さい……おいそこのおっさん、押し合わんとはよ乗ったれや!
や:あんたね、ラッシュアワーのバスの車掌やないのやから、だいたい男のくせに、スチュワーデスに憧れるいうのがいかんのや
き:何言うてますのん、最近は男も女も、職業に区別はありませんよ
や:そう言えばそうですね、君とこにしても、親父は会社のエレベーターガールをしとるし、いや、ガールやなかった、エレベーターおっさんをしとるし
き:エレベーターおっさん?
や:反対におかんの方は、地下鉄工事の現場監督をやっとるいうし
き:おい、余り人の家の悪口言ってたら、うちの姉さんに消されてしまうで
や:消されてしまうて、君の姉さん何しとんのや?
き:日本殺し屋学校の先生
や:日本殺し屋学校の先生てか
き:殺し屋いうても、アブラムシの殺し屋ですが
や:なんや、君の姉さんはアブラムシを退治する学校の先生かいな
き:そうですよ、兄さんは織物学校の先生をしてるけど
や:君とこは、男と女と全く逆やないか
き:ですから僕は男やから、スチュワーデスに憧れたんですよ
や:あっ、そういうわけでスチュワーデスに
き:小さい時から飛行機が好きでね
や:小さい時からね
き:飛行機いう言葉を聞いただけで、体がムズムズしてくるぐらいやから
や:余程飛行機が好きなんやね
き:ほれみてみ、今君が「飛行機」いう言葉を口にしたさかい、早速背中の方がムズムズしてきましたよ
や:早速ムズムズしてきましたか
き:(背中を動かしながら)今日のムズムズさ加減はいつもより激しいな
や:いつもより激しいか
き:こんな部分的にムズムズするのも初めてや、あっムズムズが、背中からお腹の方へ移動してきた
や:ムズムズが移動してきたて
き:……あっ、ムズムズに噛まれた
や:……お前、体に何かがおるのと違うか?
き:そうかなあ、アッ、痛た痒いこそば
や:ややこしいな、痛た痒いこそばて、しかしそれだけ飛行機が好きなら、いっぺん飛行機に乗せたげましょか
き:どうせ「乗せたげましょうか」言うのは、模型飛行機なんかの事やろ
や:違いますよ、うちにはちゃんと、本物の飛行機があるからね
き:ほんまかいそれ
や:ほんまですよ、人間が楽に二人乗れる飛行機ですから
き:人間が楽に二人乗れるのん?
や:そうですよ、三人乗ったら空中分解してしまうけど
き:……しかしそんな飛行機、いつ頃君、買うたんや?
や:いや買うたんと違いますよ
き:ほな拾たんかい、どこでや、公園の砂場の中でか?
や:いや、ベンチの下で……なんでやねん!飛行機が砂場の中やらベンチの下に落ちてたりするのか
き:ほなその飛行機どないしたんや、またお前の悪い癖出して百貨店で漫才してきたんやろ……いや漫才やない、万引きしてきたんやろ
や:……万引きてね、百貨店に飛行機なんか売ってるかいな
き:売ってたら、懐の中へ入れて持って帰ろ思とんのやろ
や:焼き芋と間違えとんのと違うか、うちにある飛行機は借りとんのじゃ
き:どっから?
や:飛行機学校から、その飛行機学校に在学してる者には、飛行機を貸してくれるのや
き:ほな君はその飛行機学校に在学してるのか
や:そうですよ、二年保育の赤組に在学中
き:保育園と間違えとんのと違うか
や:この飛行機学校の卒業者には、パイロットになる資格が与えられるからね
き:どんな飛行機のパイロットになれるの?
や:遊園地の飛行機の
き:そんなもん、学校入らへんでもなれるわい!
や:実際に飛行機に乗るいうことは、どんなに楽しいことか、君にも味あわせたげましょ
き:僕も飛行機に乗せてもらえるのやね
や:そう、まず飛行機に乗り込む前には、どこかに故障が無いか、必ず点検すること
き:これは一番大事なことやね
や:まず、燃料タンクに燃料漏れは無いか
き:燃料タンクにおが屑漏れは無いか
や:風呂屋や無いのやから、燃料におが屑を使てたりするかいな
き:ガソリン漏れは無いか
や:メーターその他の部分が、錆びついてはいないか
き:メーターその他の部分に、苔が生えてはいないか
や:……プロペラはスムーズに回転するか
き:プロペラを回転さすゴム紐は、ちゃんとくっついてるか
や:ゴム紐てね、模型飛行機を飛ばすのやあらへんのやから
き:プロペラを回すボンボン発動機に異常は無いか
や:エンジンと言え、エンジンと
き:エンジンに異常は無いか
や:点検が終わったら、いよいよエンジンの始動開始
き:エンジンの始動開始(オートバイのキックレバーを踏む格好)バタバタバタ、バタバタバタ、バタバタバタ、なかなかかからへんね、もう一回、バタバタバタ
や:……あんたね、安物のバタバタのエンジンをかけとんのやないで、ボタン一つでエンジンはかかるのん
き:ボタン一つでね
や:ブルンブルブル……ほれ、もうかかった
き:ほんまや、簡単にかかるのや
や:さあ出発しよ、安全ベルトを締めて
き:安全ベルト締めましょ……ゲェーッ!
や:おい、どないしたんや?
き:安全ベルトを首に締めてしもた
や:アホな、おなかに締めなさいよ
き:おなかに締めました
や:では出発!
き:発車オーライ、ピリピリピリー
や:ガッタンコッコー、ガッタンコッコー、なんでやねん、これやったら電車やないか、もう一回やり直し、出発!
き:発車オーライ、ピリピリピリー
や:その、発車オーライ、ピリピリピリーがいかんのや
き:あっそうですか
や:さあ、飛行機が動き出したぞ
き:いよいよ動き出しましたか、だんだんスピードが出てきましたね
や:スピードが出てきました
き:スピードは出て来たけど、この飛行機全然上へ飛び上がらへんやないか
や:動き始めた時のショックで、羽がぶっ飛んでしもたんやろか
き:羽てそんな脆いものですか?
や:なにしろ、竹ひごと障子紙を貼り付けただけの羽やからね
き:大丈夫かいな
や:大丈夫、羽はまだついてますよ
き:ほな、なんで飛び上がらへんのやろ
や:慌てるな慌てるな、このまま地球を一回り走った頃には、飛び上がってくれるやろ
き:そんなアホな、あっ正面に電柱が見えてきました。危ない、ぶつかる!ああ良かった、電柱がよけてくれよった
や:電柱がよけたんと違いますよ、飛行機が飛びあがったんですよ
き:あっそうですか、現在の飛行機の高度はどれぐらいですか?
や:飛行機の高度200
き:高度200グラム
や:グラム違ごてメートルですよ
き:あっ、向こうに汽車の踏切が見えてきました。スピードを落として、一旦停止……おいっ、踏切があるのに一旦停止せえへんのか、お前交通法規知らんのか
や:一旦停止なんかしてどないするねん、そんな事したら落ちてしまうやないか
き:あっそうでした。しかし飛行機から下を見下ろすて、なんとも言えんええ景色ですね
や:おい、余り大きな目むいて下を見下ろすなよ、目玉がこぼれ落ちたらどないするねん
き:目玉がこぼれ落ちたら……?
や:見てみなさい、飛行機の下でカラスが、君の目玉の落ちてくるのを口を開けて待っとるやないか
き:……目玉がこぼれ落ちたら、代わりにパチンコの玉でもほり込んどきますよ
や:ええかいな、この男
き:ほれ君とこの家があそこに見えますよ
や:どれどれ、どこですか?
き:ほれ、あそこの飛行場が近くにあって、電車の線路のすぐ傍の、消防署の向かいの、パチンコ屋の隣の、鉄工所の裏の、家の前で道路工事やってて、ダンプカーが走ってる、騒音の中にある家の見本みたいなアレ、お前とこの家やろ
や:ようそれだけ、やかましいもんばっかり集めたね
き:君とこの家は上から見たらすぐに分かりますよ、屋根が無いから
や:風通しを良くしよ思いましてね
き:おっ、君とこ御飯の真っ最中やないか、なんや、君の親父の御飯の食い方は
や:うちの親父は行儀が悪いのや
き:どの皿に乗ってるおかずが一番多いか、モノサシで測っとるやないか
や:つらいなあ
き:どのおかずを取るか、ジャンケンして決めとる決めとる
や:恥ずかしなあ
き:子供は負けて、君の親父とおかんが、ジャンケンに勝ちよった。夫婦で組んどんの違うか
や:組んだりするかい
き:おかずは一体何やろ、なんやオタマジャクシの酢の物に、洗濯のりの佃煮か
や:無茶言いよんな
き:あっ、君の弟が横を向いてる間に、親父が弟のおかずを盗みよった
や:また親父の悪い癖が出たか
き:ほれ、弟が泣き出した泣き出した
や:あいつ、すぐ泣きよるからな
き:それ見た母親が、親父の頭をどつきよった。そら拾ったぞ、只今から横山家夫婦の夫婦喧嘩を、日本、メキシコ、アメリカを結んでの、衛星中継でお送りいたします
や:待て待て
き:あっどつかれた親父は、足で蹴り返しました。おかんは興奮しております。あっ、ついに親父に噛みつきました。離しません、離しません。きっと、スッポン蔵の生まれでしょう、それを見ている200人の観衆は大喜び、物を投げないで下さい!
や:ええかげんにしなさい
き:しかし空の上からは、いろんなものがよう見えるもんですねえ
や:そらそうですよ、空には何一つ障害物が無いからね
き:空の上は気持ちよろしいねえ、なんや歌を歌いたなってきたなあ(歌を唄う、曲名バラバラ)
や:おいみてみい、君がそんなバラバラバラバラ変な歌うとうてるから、飛行機の部品が、バラバラに外れてきたやないか
き:ほんまですか
や:あっ、えらいこっちゃ、プロペラまで外れてしもた
き:プロペラまで外れてしもたて、ほな一体、どないして飛ぶのや
や:しょうがない、予備のプロペラを取り付けましょ
き:予備のプロペラて、そんなんあるのん
や:予備のプロペラとして、扇風機をいつも用意してますから
き:扇風機が予備のプロペラか
や:今度はプロペラを回すエンジンの調子がおかしなってきましたよ
き:今度はエンジンですか
や:どないしたんやろ、燃料のガソリンが切れてきたんやろか、お前ちょっと降りて見てきてくれ
き:待ちなさいよ、ここは空の上ですよ、降りたりできるかいな
や:それをころっと忘れてました
き:忘れたらいかんがな、ガソリンが無くなったら、ガソリンスタンドで入れたらええ
や:お前も何言うとんねん、空の上にガソリンスタンドがあるのか
き:それをころっと忘れてました
や:同じように言うとんのやあらへんで
き:あっ、飛行機の後ろの方から、黒い煙がモクモク出ていますよ
や:誰かがサンマ焼いとんのやろ
き:ええかいな
や:私の操縦の技術を信じなさい
き:そうですか、大船に乗った気持ちでいたら、よろしんですね
や:いや、嵐の晩に、ヨットに乗ったような気持でいてなさい
き:……なんやえらい揺れてきましたけどね
や:地震と違いますか?
き:地震が飛んでる飛行機まで、揺すぶったりしませんよ……あっ飛行機が墜落していく
や:なに、墜落していく……それやったらはよこれを着けて、脱出しなさい

 

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